文献二次電池システム研究会 日経BP掲載内容

二次電池システム研究会 日経BP掲載内容

2008.02.22

2008年2月22日の日経BPに以下の内容で二次電池システム研究会の活動が掲載されました

「社会システム・イノベーション」

新しい仕事の成果が出ると、名前をつけることになる。私の場合、船の作る非線形波を"自由表面衝撃波"と名づけ、船の形を設計するためのコンピューター・シミュレーションのソフトウェアには"TUMMAC"や"WISDAM"というコード名をつけた。世界で3番目の水中翼船には"ウィングスター"という名前をつけて、カタログ販売を開始したのだが、営業上の理由で"スーパージェット"に替えられた。アメリカズカップ艇2隻のニュックネームは公募して、"阿修羅"と"韋駄天"になった。公式な艇の名前は、JPN52といった国籍と登録番号なので味気ない。だからレース中もマスメディアはこの仏教の神の名前を使ってくれた。実況では「今、IDATENがLUNA ROSSO(伊、プラダチーム)の前にでました」といった具合だった。名前をつけることは楽しいし、意味のあることだ。名前を付けられる仕事ができるということは、創造的な仕事ができるということだからだ。

しかし、21世紀には、私たちは力をあわせて、もっともっと創造的な仕事に取り組まなければならない。経営システムや社会システムにも創造的な革新が求められている。新しいシステムを創造し、革新をもたらすことは今の日本にとっても世界にとっても一番大切なことだ。システムはモデルとかアーキテクチャーに近い概念で捉えていただきたい。21世紀にも、科学技術がたくさんの難しい問題を解決しなければならないことは明らかだが、この科学技術のなかで、システム工学またはアーキテクチャー工学は、バイオやナノなどの要素技術と同等以上に大きな役目を担うだろう。

企業のなかには、調達システムや生産システムや販売システムや物流システムや情報システムがある。それぞれのシステムにイノベーションが求められている場合もあるし、これら全部を統合した経営システムとして企業のアーキテクチャーに改革が必要な場合もある。 企業の内部だけでシステムが完結することはありえない。関連企業や顧客も含めたシステムの一部として企業活動を考えることが大切な時代になってきている。株主はもちろん、環境を通して地球住民全部とも、一種のシステムを作っているという視点も大切である。社会システムと呼ぶのがふさわしい。社会システムとしての全体最適がすべての活動の目標である。 私の研究室で取り組んでいる書籍ビジネスは、情報システム中心の第一段階が大詰を迎えている。書籍ビジネスは、出版社、取次社、書店のそれぞれが独自に経営改革しても成果は小さい、これらすべてのプレーヤーの集合体としての書籍社会システムに改革をもたらさなければならない。大変なことなのだが、ようやく第一段階の見通しができて、実地での実証実験ができるようになった。近い将来に、出版から顧客までをシンクロナイズさせた社会システムとして書籍ビジネスが経営できるようになり、返本率は20%に半減させることができるだろう。企業システムではなく、社会システムの最適設計を考えることにより、新しいビジネスモデルが創造されるのである。そうして毎年500億円以上のムダがなくなり、顧客とそれぞれのプレーヤーに還元され、環境負荷も小さくなる。

自動車産業は典型的な製造業である。しかし、よく考えてみれば販売を通してサービス業の側面をもっているし、社会システムとして考えれば、自動車会社と販売会社と顧客が社会システムを作っている。セダンしかなかった時代から、SUVやワンボックスやスモールカーなどの車種の多様化を進めたのは、自動車会社というより実は顧客だったということもできる。製造業とサービス業の境目はあいまいになってきている。乗用車の場合は、書籍より単価がはるかに高く、約10年間つかわれる耐久消費財だから、最近のレクサスのビジネスのように、販売後のサービス業の部分に力を注ぐ方向に向かうのだろう。

このように、ビジネスを、それぞれの企業と顧客と株主との関係を考えるだけでなく、アーキテクチャルな見方で、ビジネスを社会システムと考えることによって、システム・イノベーションが推進される。

しかし、最近、このようなシステム革新と'要素技術'の革新の両方が結びつけば、もっと大きなシステム・イノベーションが実現でき、その成果は、システムだけの革新の場合より一桁も二桁も大きいだろうということを教えられた。教えてくれたのは、リチウムイオン電池の第一人者だ。ほとんど何も教えてないが一応私の研究室の卒業生の一人だ。
リチウムイオン電池は、この10年余りのうちに格段の進歩を遂げたし、リチウムの資源にも問題がない。家電製品はもちろん、自動車用電池の主流もリチウムイオンになりそうである。リチウムイオン電池を積んだ電気自動車の性能は内燃機関を積んだ車の性能を超えつつある。 この新しい技術をエレクトロニクス製品や自動車の部品として考えるのではなく、社会システムの一つの基幹要素として考えると、社会のエネルギーシステムに変革をもたらすかもしれない。

リチウムイオン電池のコストが下がり、社会に普及して、家庭にソーラー発電機とリチウムイオン電池があり、電力会社から供給される電気は、現在と同じく直接使うこともできるし、夜間に、安い電気を買って、電池に貯めることもできる。そうして、電力会社は家庭や事業所の蓄電能力に頼って、昼夜、週間の発電量の変動を最小にして、発電コストを下げることができる。 自家用車としてはリチウムイオンを積む電気自動車が普及して、その電池は、夜間に駐車場で、家庭の電源にプラグインで結合されて充電される。発電所の熱効率は50%近くなのに乗用車の熱効率は20%以下なので、これだけでも効果は大きい。更に、電力会社の発電の効率化、電気の無駄のない使い方、自然エネルギー発電の増加、内燃機関の減少による環境改善効果など、たくさんのメリットがリチオムイオン電池の普及と同時に達成されるかもしれない。その先では、リチウムイオン電池だけでなく燃料電池も重要な技術として参加してくるかもしれない。

これが近未来都市のエネルギー供給と交通のシステムとして設計されれば、都市のインフラは大きく変わり、環境と資源エネルギーの2つの重要課題に対する大きな回答になるかもしれない。

要素技術の革新と社会システムの革新が複合的にインテグレートされた時、大きな社会の変革と進歩が実現するだろう。